電気設備設計とは?初心者にもわかる仕事内容と図面の基本
- design H
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更新日:8 時間前

■ 電気設備設計とは何か?
電気設備設計とは、建物で使用する電気に関するすべての機能を、安全かつ効率的に使えるように計画する仕事です。たとえば「照明の配置」「コンセントの数や場所」「分電盤の構成」「非常用電源の設置」などを決めて、実際の施工に必要な図面を作成します。住宅・マンション・オフィスビル・学校など、建物の種類によって設備の設計内容も変わります。
設計者は建築・構造・設備の関係者と連携しながら、使いやすさ・安全性・省エネ性を意識した設計を行う必要があります。
■ 電気設備設計の主な業務範囲
電気設備設計の主な業務は、大きく以下の5つに分けられます。
① 照明・コンセントの配置計画
部屋の用途に応じて、照明の種類や明るさ(照度)、コンセントの位置や数を決めます。快適性と利便性に直結する部分です。
② 動力・設備機器の電源設計
空調・給湯・エレベーターなど、動力機器に電源を供給するための電圧・回路・ケーブル仕様を設計します。
③ 受変電・分電盤設計
高圧または低圧で受電し、建物全体に電気を配るための設備を計画します。幹線ルートや盤の回路構成も検討します。
④ 情報・弱電・通信設備の設計
LAN、電話、テレビ共聴、防犯カメラなどの情報設備も電気設備の一部です。近年はIoT機器への対応も求められます。
⑤ 非常用電源・防災設備の設計
停電時に備えた非常用発電機や、非常灯・誘導灯、火災報知設備の設計も重要です。法令遵守が前提となります。
■ 電気設備の種類(照明・配線・受変電など)
電気設備は非常に多岐にわたりますが、代表的なものは以下の通りです。
照明設備
LED・ダウンライト・非常灯・外構照明など。照度基準(JIS照明基準)や調光方式にも配慮します。 ※参考:JIS照明基準総覧(JIS Z9110)
配線・コンセント設備
屋内外の配線ルートを計画し、各部屋に適切な位置と容量のコンセントを設置します。分岐回路の過負荷にならないように設計します。
受変電設備(キュービクルなど)
電力会社から高圧(6.6kVなど)で受電し、構内用に低圧へ変圧して配電するための装置です。
分電盤・配電盤
建物内部に電気を分配するための盤設備です。照明回路や動力回路ごとに安全に配電する設計が求められます。
非常用・防災設備
非常用発電機、非常照明、誘導灯、火災報知器など、法令で設置が義務付けられる設備も含まれます(建築基準法・消防法等に基づく)。
■ 基本的な図面の読み方と作成例
電気設備設計では、工事業者が正確に施工できるよう、複数種類の図面を組み合わせて作成します。それぞれの図面には役割があり、内容の理解が設計品質に直結します。以下に代表的な図面とその役割・見方・作成時のポイントを解説します。
① 配線図(電気設備平面図)
役割:
建物の各階における照明器具・スイッチ・コンセント・分電盤の配置や、それらをつなぐ配線ルートを示す図面です。
図面に記載されるもの:
照明器具(ダウンライト、シーリングライトなど)とその設置位置
スイッチの位置と対応する照明(線で接続)
コンセント・情報コンセントの位置
分電盤の位置と回路の配線ルート(主幹・分岐)
記号:照明器具やスイッチ・コンセントは図記号(JIS)で表記
注意点・作成時のポイント:
分岐回路の過負荷防止(容量オーバー)に配慮し、回路ごとに負荷計算を行う
スイッチと照明器具の連動関係を明確に図示(片切・3路など)
バリアフリーや消防法、建築基準法など他法令との整合性もチェックする
照度(明るさ)基準も参照し、照明器具の数や位置を計画する(例:執務室は500 lx 以上)
参考図記号資料:
② 系統図
役割:
建物全体に電気を供給するための上流から下流までの電力フロー(受変電 → 幹線 → 分電盤 → 機器)を、簡略化した図で表します。使用する電線や遮断器、分岐数、設備容量がひと目でわかる構成になっています。
図面に記載されるもの:
受電点(電力会社からの高圧 or 低圧)
変圧器、分電盤、幹線、電力機器(空調機、エレベーター等)
ブレーカーや漏電遮断器(MCB、ELBなど)の仕様・容量
回路電流、幹線サイズ(CVT、CVケーブルの太さ)
配電方式(単相2線式/3線式、三相3線式 など)
注意点・作成時のポイント:
機器容量(kVA)と使用率に基づいた幹線・遮断器の選定
電圧降下・温度上昇・選択協調(遮断器の連携)も考慮
法令で定められた幹線の許容電流や短絡電流の保護を満たす必要がある
非常用負荷(誘導灯、排煙設備など)は専用系統にまとめる
おすすめ資料:
③ 盤図(分電盤・制御盤の内部構成図)
役割:
分電盤・制御盤の内部構成や回路の接続関係を詳細に示した図です。電源の入り口から出力される回路、ブレーカーの配置順、予備回路の有無などを把握するために使われます。
図面に記載されるもの:
盤名称・盤型・設置場所・寸法
主幹ブレーカー(例:60A、ELB)
分岐ブレーカー(例:15A×12回路)
制御リレー・接点構成・表示灯・ブザーなど(制御盤の場合)
配線番号、回路ラベル、負荷名称(例:エアコン、給湯器など)
注意点・作成時のポイント:
ラダー図(接点とコイルの動作順)で制御ロジックを示すこともある
メンテナンス性を考慮し、余裕回路(予備)を用意する
回路ごとの動作条件や制御順序を明確に(特にタイマーや押しボタン併用時)
各回路に番号・用途・容量・端子番号を必ず記入しておく
備考:
盤図は機器納入仕様書のチェックや施工業者との照合にも活用されます。図面は細かい記載が多いため、見落とし防止にチェックリストを使うのも有効です。
■ 設計に必要なスキルと知識の習得方法
電気設備設計を行うには、技術的なスキルと法令知識の両方が求められます。初心者の方がどのように学び始め、実務に活かせる力を身につけていけばいいか、それぞれの項目を詳しく解説します。
① 電気の基礎知識
なぜ必要?
設備設計では、電圧・電流・抵抗の関係(オームの法則)をはじめ、直流と交流の違い、単相と三相の配線方式、および電力の計算方法(W=V×Iなど)を理解する必要があります。これらの知識は機器容量の選定や配線設計の根拠になるため、設計のすべての基礎になります。
学習方法:
高校物理レベルの「電気回路」から始める
『電験三種の入門書』や『電気設備技術基準と解釈』で基礎固め
YouTubeやUdemyの初心者向け電気講座もおすすめ
② 法令・基準の理解
なぜ必要?
電気設備は安全性と法的な適合性が最優先です。たとえば「非常照明は何lx必要か?」「受電設備の設置条件は?」「誘導灯の位置は?」といった要件は、建築基準法・消防法・電気設備技術基準などの法令に従う必要があります。
主な対象法令:
建築基準法・施行令(非常用電源、避難照明など)
消防法(火災報知設備、誘導灯など)
電気設備技術基準(高圧・低圧受電設備の構成など)
建築物省エネ法(照明・動力のエネルギー消費量に関する計算)
学習方法:
法令書や基準書を国交省・経産省のサイトから確認
公共施設設計基準や設計指針を読む(官庁案件に有効)
建築設備設計に特化した法令研修会への参加もおすすめ
③ 図面作成のスキル(CAD・BIM)
なぜ必要?
図面が読めて描けなければ、設計者としての業務は成り立ちません。配線図や系統図、盤図などの電気設備図面を2D CADで作図・修正できることが基本であり、近年ではBIM(3D設計)対応ソフトの操作スキルも求められています。
主なソフトウェア:
AutoCAD:業界標準の2D CAD(建築・構造・設備すべてに対応)
Jw_cad:無料で扱いやすく、個人や中小設計事務所に人気
Revit:BIM設計の基本ソフト。3Dモデルで設計情報を一元管理
Tfas / CADEWA / Rebro:設備専用CAD(配線・配管を視覚化)
学習方法:
各ソフトの公式チュートリアル/マニュアルで基礎から操作練習
YouTubeの実務解説動画(「AutoCAD 電気図面」など)
CADオペレーター講座(職業訓練校/民間スクール)に参加
④ 実務経験・負荷計算の知識
なぜ必要?
建物に必要な電気容量を算出する「負荷計算」は設計の根幹です。照明負荷・動力負荷・コンセント負荷・空調負荷などを適切に見積もることで、受電容量や分電盤の回路設計、幹線サイズなどを決定できます。
基礎知識:
照明負荷=照明器具のW数×使用時間×同時使用率
コンセント負荷=回路数×定格電流×使用率
空調や動力は負荷一覧表(カタログ)と使用頻度で評価
使用率や同時使用率の選定には実務的な判断力も必要
学習方法:
設備設計事務所でのOJTが王道
実務書籍(『建築電気設備設計入門』など)で負荷計算の流れを学ぶ
シミュレーションツールを使って感覚を養う(例:EnergyPlus)
⑤ 資格の取得
なぜ必要?
電気設備設計者としてのスキルと信頼性を証明する手段のひとつが資格です。特に業務の幅を広げたり、転職や独立に有利になる資格は以下の通りです。
主な資格一覧:
資格名 | 主管省庁・機関 | 対象業務・特徴 | 難易度・受験条件 | 活用シーン |
建築設備士 | 国土交通省 / JAEIC | 設備設計のプロ資格。建築確認申請の「設備設計一級建築士」の受験資格要件。 | 一級建築士 or 二級建築士取得+実務経験2年以上 | 公共施設や大規模建築の設計責任者に必須 |
第一種電気工事士 | 経済産業省 / 電気技術者試験センター | 高圧(600V超)電気設備の設計・施工に関わるための資格 | 筆記+技能試験。第二種より難易度高 | 高圧受電設備を含む設計・工事監理に対応 |
第三種電気主任技術者(電験三種) | 経済産業省 / 電気技術者試験センター | 高圧受電設備の技術責任者に就任可能。設備保守や設計の信頼性確保に直結 | 法規・電気理論など難易度高。独学可だが対策講座も有用 | ビル・工場の電源計画や保安管理、設計信頼性向上 |
エネルギー管理士(電気分野) | 経済産業省 / 一般財団法人省エネルギーセンター | 高圧設備やZEB・省エネ対応設計で有利。省エネ法に基づく専任者対象資格 | 計算中心の国家試験。実務経験または研修経由 | ZEB設計、BEI対応、環境配慮設計での信頼性向上 |
技術士(電気電子部門) | 文部科学省 / 日本技術士会 | 電気・エネルギー技術の国家資格最高峰。設計コンサルや教育にも強い | 一次試験→二次試験(論文・面接) | 高度専門設計や第三者チェック業務で評価される |
電気通信主任技術者(伝送交換/線路) | 総務省 / 情報通信振興会 | 情報・通信系設計に特化した国家資格。建物のLAN・監視システム等にも有効 | 合格率は低め(10〜20%) | 病院・大型商業施設等の弱電設計に強み |
資格選びのポイント
建物設備全般を統括設計したいなら → 建築設備士
高圧受電・盤設計・動力設備に強くなりたいなら → 第一種電気工事士+電験三種
省エネ対応・ZEB設計を視野に入れるなら → エネルギー管理士
弱電・通信にも対応したいなら → 電気通信主任技術者
将来コンサル業や技術指導も視野に → 技術士
学習方法:
テキスト・問題集で独学(資格予備校もあり)
勉強会や模試を活用して合格率を上げる
資格取得を目標に、逆算的にスキル習得計画を立てる
このように、電気設備設計のスキルは理論・法律・ソフト操作・実務・資格という5つの領域に分かれます。初めは難しく感じても、ひとつずつ順番に学んでいけば確実に身につきます。「図面を描けるようになりたい」「実務で役立ちたい」という気持ちがあれば、設計者として成長できる環境は整っています。
資格は“入口”、でも“ゴール”ではない:
電気設備設計のキャリアアップや信頼獲得において、資格取得は確かに有効な手段です。国家資格を持っていることで、発注者からの信頼を得やすくなり、携われる業務の幅も広がります。しかし、資格はあくまで「スタートライン」であり、目的そのものではありません。
現場で求められるのは、以下のような実務力です:
課題を見つけ、論理的に設計へ反映できる力
図面や仕様書を「読み・描き・伝える」力
チーム内や施主との信頼関係を築くコミュニケーション力
経験から得た“肌感覚”の判断(同時使用率、負荷の見積り など)
実際、資格を持っていなくても高い評価を得ている設計者は多くいます。逆に、資格を持っていても図面が描けない・負荷計算ができない・法令を把握していないという状態では、現場で信頼されるのは難しいでしょう。
■ まとめ|電気設備設計は図面と知識の積み重ねが重要
電気設備設計は、照明やコンセントから、受変電・防災・通信まで、建物の電気を支えるあらゆるシステムを計画・設計する仕事です。初心者にとっては範囲が広く感じられるかもしれませんが、まずは照明・配線・図面の基本から順に学ぶことで、確実にステップアップできます。特に、図面の読み方や記号の理解、電気法令の基礎、CADスキルの習得は必須です。実務経験や資格取得を通じて、長期的にスキルを伸ばしていける分野です。これから設備設計を目指す方にとって、本記事が導入の一助となれば幸いです。

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